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 テストの時間。たぶん、(九年間の)人生の中で一番心臓がばくばくした時間だった。  先生にバレたらどうしよう。友達にバレたらどうしよう。しかし斜め前に座る陽翔は、蓮の心中など露知らず、平然としていた。 「じゃあ今回は出席番号順に始めます」と先生が言ったとき、あっ、と思ったが、遅かった。名字が『あ』から始まる陽翔が真っ先に呼ばれる。陽翔が吹くリコーダーが、自分のもののように思えなかった。急かすように手を差し出されたのは覚えているけど、その手に自分のリコーダーを預けてしまったときのことは、ぽっかり記憶から抜け落ちていた。  戻ってきたリコーダーには、陽翔の熱がじっとりとまとわりついていた。  陽翔が先に吹くと分かっていたら、貸すなんて約束しなかった。吹き口にがっつり口をつける勇気が出なくて、そろそろと吹いていたら音はちっとも安定しなくて、テストは散々だった。心臓はずっとばくばくしていた。  やっぱり陽翔は平然としていて、自分の心拍の五とか十とか、できるものなら引き取らせてやりたかった。

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