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「邪魔なんだよ! お前はいいかもしんないけど、ひとの迷惑、ってものを考えたことあるのか!」  そのとき蓮は風紀委員をしていて、(現在まで十八年間の)人生の中で一番、正義感に燃えていた時期でもあった。 「お前さあ、今の格好、『きゃっかんてき』に見たことあるのかよ。どれだけいい傘でもさあ、身体に合ってなかったら、傘に『差さされて』て、超ダセーわ!」  威嚇するように陽翔は傘を振り上げてみせた。迷惑そうに通り過ぎていくひとの姿が見えたが、もうどうでもよかった。 「つーかさあ、お前それ、身長よりでっかいんじゃないの」 「はあ……? それはねーだろ」  詰め寄ると、陽翔は一歩後ずさった。 「いやいや……やっぱりでっかいって! ありえねー、身長よりでっかいとか!」 「そんなことねえって!」  違う、違わないの攻防を繰り広げたあと、こうなったら白黒はっきりつけようという話になった。身長よりでかかったら、もうこの傘は学校には持ってこない……  ランドセルから30センチの竹の定規を取り出し、傘にぺた、ぺた、と宛がっていく。 「130……135……」  ほらやっぱり、と言いかけたとき、「いやいや違うだろその測り方!」と、手首を掴まれて制された。「それやったら絶対長くなるじゃん。『直径』は、『円の中心を通って、円の端から端まで引いた直線』だろ!」 「円の中心通ってんじゃん」 「それ曲線!」 「なーんだ、気づいた?」  丁度その頃、算数の授業で円の直径とか半径とかを習っていた頃だった。  実際やってみて分かったが、湾曲して、かつ柄の飛び出ている傘の直径を正確に測るのはなかなか難しかった。 「130……」 「128だ!」 「えー130超えてるだろ」 「何見てんだよ。こっちからまっすぐ下ろしてみろよ。130なんてないじゃん!」  130あるかないか。  そんなことでお互い顔を真っ赤にし、唾を飛ばして言い合った。  最終的にどうなったかは忘れてしまったけれど、陽翔がやたらと「128! 128!」と繰り返していた、そのことだけは、その声音も含めて覚えている。  陽翔の身長は一体いくつだったのか。結局分からずじまいだった。

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