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「うわっ、吃驚した。蓮か。何でこんなとこに座ってんだよ」
「雨宿り」
「何、また傘忘れたの?」
「忘れた……というか、持ってきてない」
「もしかしてここでずっと待ってた?」
「そういうわけじゃないけど」
「俺が来なかったらどうするつもりだったんだ」
「別にお前を待ってたわけじゃないけど……まあ、どうにかしてたよ」
正門に続く階段。その下から三段目に腰掛け、ぼんやりしていると、丁度陽翔が降りてきた。陽翔が横に並んだタイミングで立ち上がる。陽翔が傘をひらく。
直径128センチメートルの傘ではない。どこにでもあるビニール傘。直径はたぶん、1メートルもない。
「蓮って基本真面目できっちりしてるけど、傘だけは例外だよな」
「朝降ってなかったら忘れるんだよ」
「折りたたみ傘くらい入れときゃいいのに。この時期くらい」
「この時期だけだと思うと余計面倒で。それに傘の分だけ鞄が重くなるのは嫌だ」
「今結構、軽いのあるのに」
「質量を取られるのが嫌」
「まったくもう……」
どんなに頑張っても完璧に濡れないようにするのは無理だ。柄を掴んでぐい、と引き寄せると、「あつかましすぎだろ」と、押し返された。
小中高。まさかここまでずっと、陽翔と一緒とは思わなかった。
ずっと一緒にいると、変化に気づきにくい。そういえば一体いつから、陽翔はあの傘を使わなくなったんだろう。いつの間に、身長を追い越されていたんだろう。そして、いつからこんな……
陽翔は、一度は押し返したくせに、今度は引き寄せようとしてくる。腰を掴むのはやめてほしかった。それならまだ肩の方がいい。腰だと何だか、なまなましさが際立つ。
自分たちの関係はあの頃とはもう違うんだという、なまなましさが。
蓮がそんなことを考えているなんて、陽翔はきっと、想像すらしていない。
腰に添えられた手の、小指と薬指だけが動いた。何も考えていないのか、それとも何か意図があるのか図りかねて思わず陽翔を見上げた瞬間、シャツがズボンからはみ出てしまう勢いで引っ張られた。
「なんっ……」
抗議の声を上げる暇もなかった。
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