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身体がすっぽり隠れるサイズ。傘の長さを測ってから、逆にそのことを利用して遊び始めた。ふたりで一緒に傘の中に入って、怪獣の光線から身を守る盾代わりにしたり、移動型の秘密基地にしたりした。雨の日が待ち遠しかった。大人たちが、「嫌ねえ、とうとう鬱陶しい季節になっちゃったわ」と言う、その意味が分からなかった。
学校の傘立ての中に一本だけ、皆の傘より頭ひとつ分抜け出た傘。自分のはどれだとうろうろする必要もなく、それをサッと抜き取る陽翔は格好よかった。身長よりでかいじゃないかと散々からかったけれど、でも本当は、陽翔が持つとちっとも大きくなんて思えなかった。それを持ってサマになるのは、陽翔しかいないと思っていた。
いくら大きい傘といっても、しゃがみ込んでふたりで入るには限界はあって、頭は大丈夫でも、背中とか、お尻とかはびちょびちょに濡れた。けれどそのときは、まったく気にならなかった。傘の下で、『秘密基地の秘密金庫』用の穴をふたりでせっせと掘った。時折膝頭同士がぶつかってよろめいて、たいてい蓮の方が尻餅をついた。でもあるとき、お互い力をかけすぎることなく、絶妙なバランスで膝と膝がくっついていたことがあった。ぺたり、と、感じる、陽翔の肌の感触。静電気でくっついているときのように、そうっとそうっとしないと、すぐにでも離れてしまいそうな危ういバランス。自分から離れることはできなかった。足が痺れても、ずっと同じ姿勢を保ち続けた。肌と肌の間に、汗と、雨粒。
自分の肌の方が熱い。感じた瞬間、その温度差に耐えきれなくなったように、陽翔の肌が、離れる、というより、剥がれていった。
好きとか、自慰とか、セックスとか。そんなものを知るより先に、これは変態だ、と、そのとき悟った。自分は、変態。
甘酸っぱい経験と、こっ恥ずかしい経験と、死にたくなるような経験を混ぜ合わせながらここまで来た。
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