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《3》
物腰も柔らかくて、凄く温和そうだ。
こいつとなら、喧嘩になって揉める事も無いだろう。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。
「利久、俺はまだお前の転入の手続きがあるから行くが、分からない事があれば良次に聞いてくれ」
「あ、ああ。ありがとう、おじさん…」
本当は此処ではなく、おじさんの家に行きたい。
俺は言いたかった言葉を飲み込んだ。
だって、おじさんが忙しいのは俺の所為だって事位は理解している。
色々迷惑を掛けてしまっている自覚はあったし、急いでいるのを引き止められる筈も無かった。
「そんな顔をするな。何か困った事があれば、連絡を寄越せ。まぁ、マメに様子は見にくるから、な?」
まるで子供を宥める様な言い草に、俺は呆れる。
一体、俺がどんな顔をしてたって言うんだ。
俺は首を振った。
「おじさん…、俺もう子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
「高校生はまだ子供だ。いいか、良次にあまり迷惑掛けるんじゃないぞ」
「わーってるよ」
「じゃあ、良次。頼むな」
「はい、また今度美味い酒でも飲みましょう」
………。
ん?酒?
聞き間違いだろうか…。
どう見ても、俺と同年代だよな?
一瞬考えて良次の方を振り向くが、にこにこと爽やかな笑顔を見て、やはり聞き間違いかと首を傾げる。
おじさんは良次に向かって、ひらひらと手を振って再び車に乗ると、すぐに車を走らせ見えなくなった。
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