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新しい朝《1》

誰か…、呼んでる…。 『ふふ、利久…。』 『起きないと、学校に遅れちゃうわよ?』 ああ、母さんの声だ。 いつも、起こしてくれる母さんの声。 優しくて、大好きなーーーー。 ………………。 「……ぃ、おい!テメェ、俺への当てつけか?」 揺さぶられて、夢の中から現実へと引き戻される。 「ん…う…?」 「布団も敷かずに、よく床で寝られるな…、お前…」 急に呆れ顔の良次が視界に飛び込んできて、一気に覚醒する。 「あ、俺………?」 「布団ならクローゼットに入ってたろうが…」 「いつの間にか、寝ちまってた…」 「お前な…。わっ、なんだその雑巾みてぇなの。汚ねぇな…」 何の事か分からずに自分の周りを見る。 そして、また自分の手元へ視線を戻して、ぬいぐるみの事だと気づく。 慌てて後ろに隠すと、良次が気持ち悪いものでも見る様な目で見下ろしてくる。 実際、気持ち悪いと思われているのだろうけど。 「その汚ねぇの、ぬいぐるみか?そのツラでぬいぐるみ抱いて寝てるとか、マジでキモいな、お前…」 「う、うるせぇな!俺の勝手だろう!大体、何の用だよ!?俺には干渉しないんじゃなかったのかよ!?」 良次の表情が呆れたものに変わる。 「お前…、今日から学校に通う事忘れてるんじゃねぇのか?」 「…………あ」 言われて、慌てて今日の日付を思い出す。 そうだ、今日から新しい学校に通うんだった…。 「気楽なもんだな…。どうせ、その調子じゃ、学校までの道順も確認してねぇんだろ?秋人さんに頼まれてるから、一応の説明はしてやる。早く支度しろ」 良次の言葉に、俺は慌てて制服に手を伸ばした。

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