19 / 346
《5》
「で、此処が一番近くのスーパーだ。21時までだから、それ以降は駅前のスーパーが遅くまでやってるし、コンビニは家の傍にある」
意外にも、良次は帰り道、周辺の案内までしてくれた。
もしかしたら、思っていた程悪い奴じゃ無いのかもしれない。
そう思って、良次にお礼を言う。
「あの、ありがとう…」
「勘違いすんなよ。何度も説明すんのが面倒だから、先にまとめて案内してるだけだ。明日からあんま関わるつもりねぇから」
「あ、…ああ」
素っ気なくそう言い捨てられたが、助かる事に変わりはない。
良次の言う通り、お互い関わらない様にすれば嫌な思いをする事やトラブルは避けられるだろうし。
何とかなりそうかと少しだけ安堵する。
家に戻ると、良次が鍵を一つ放り投げてきた。
「これが、お前の分の鍵だ。面倒臭ぇから、無くすなよ」
鍵を渡されると、本当に此処で暮らすのだと妙に実感した。
「風呂とトイレの場所は朝説明したし、家のもんは適当に使え」
「…おう」
「そういや、お前の荷物はいつ届くんだ?」
「荷物?」
良次が何を聞いているのかが分からなくて首を傾げると、良次は苛立った様に眉を顰める。
「引っ越しの荷物だよ。当日バタバタすんだろぉが、日時教えろよ」
「荷物は初日に持って来たから、あとは無い」
「…………………は?」
良次が理解できないと言う様な目で見ている。
「お前、荷物アレだけなのかよ?」
「え?」
「あんなんで、生活出来る訳?」
「いや、普通に出来るけど…」
「マジで野生児かよ、お前…」
何だかよく分からないが、馬鹿にされている気がする。
腹が立つけど、ぐっと堪える。
一応、今日一日世話になったし。
「まぁ、俺には関係ねぇから良いけど…。おら、携帯出せ」
「え…?」
「携帯だよ、携帯。お前の番号なんざ知りたくもねぇけど、一緒に暮らす以上、連絡取れないと不便だろぉが」
「………ねぇ」
「は?」
「携帯電話を持ってねぇ」
良次は、今度は完全に言葉を失っていた。
ともだちにシェアしよう!