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二人の夜《1》
昔、嵐の夜の出来事だった。
幼い利久は、ぷるぷると震えながら、大きな瞳から涙をぽろぽろ零す。
大きな雷鳴が、
真っ暗な空が、
家を叩く雨の音が、
とても恐ろしくて、布団を被って震えていた。
『ひーちゃん。出て来て、ご飯にしましょう?』
いつもはお母さんの言う事を素直に聞く利久だったが、この日ばかりはなかなか布団から出れずにいた。
『ふぇぇ、ひーちゃん、恐いよぉ…』
『ふふ、ひーちゃんは、泣き虫さんね』
くすくすと愛おしそうに母親が笑う。
『ひーちゃん』
『?』
『ひーちゃんのお友達のクマさんよ』
そう言って、母親が取り出したのはふわふわのテディベアだった。
『くましゃん!!』
利久は、途端にキラキラと目を輝かせる。
『りょうちゃんって名前なのよ。りょうちゃんは、とっても強いのよ』
『えぇ!?こんなにかわいいのに、強いのぉ!?』
『そうよ、だからね。どんな時でも、利久を守ってくれるのよ』
『かっこいい!!』
一層目を輝かせて、利久は受け取ったテディベアを抱き締めた。
そうすると、不思議と恐怖心が和らいでいく。
もう、嵐も恐く無かった。
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