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《2》

―コンコン…。 良次の部屋をノックすると、予想通りの不機嫌顔で部屋の中から出てくる。 「何だよ、さっきのぬいぐるみの事なら謝ったじゃねぇかよ…」 「違う…、捨てた事は、もういい……」 「あ…?じゃあ何だよ?」 訝しげな良次に、俺は黙り込む。 何て言えば良いのだろう…。 だけど、この家には、俺と良次の二人しか居ない。 頼れる相手は良次しか居ないのだ。 俺は、意を決して顔を上げた。 「ぬいぐるみ…、ねぇと寝れねぇ」 「は?」 「一人じゃ寝れねぇ」 狭い六畳の部屋に母さんと二人、布団を敷いて寝ていたから、一人で 寝る事にも慣れていない。 それでも、母さんが入院して一人で寝る夜もあった。 そんな時は、あのクマのぬいぐるみがあったから平気だったんだ。 だけど、それがなくなってしまって、悲しみと寂しさで眠れそうも無かった。 「…………」 良次は、完全にひいている顔で沈黙している。 やっぱり言うんじゃ無かったと早速後悔した。 「気持っち悪ぃ…、お前、まさかホモじゃねぇだろうな…」 微妙に良次の部屋のドアの開きが小さくなる。 「!?ち、違っ…!」 良次の言葉に慌てて否定する。 そ…、そうか…。 考えてもみなかったけど、良次の様に整った容姿をしている人間は、もしかしたら女性だけじゃなく、男性から好意を持たれる事も少なく無いのかもしれない。 完全に疑いの目で見ている良次に慌てて弁解をする。 だけど、弁解をすればする程に、良次の顔が険しくなっていき、泣きたくなった。

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