28 / 346

《4》

多分、顔は見られていなかったと思う。 このまま逃げ切れば、さっきの出来事は見なかった事に出来る。 良次が不良グループのリーダーだろうが、どうでも良かったし、不良グループと問題を起こすのは、今は何としても避けたかった。 橋に差し掛かった時だった。 「え………?」 川の傍で小さな女の子が泣いている。 必死に何かを叫んでいた。 その先には…。 「マジ…かよっ…!?」 犬が川の中央で溺れている。 何もこんなタイミングでこんな場面に出くわす事はないだろう。 このままだと、良次達のグループに追いつかれちまう。 助けなければと、逃げなければという選択肢が頭の中を巡る。 だけど、迷っている間にも、今にも女の子は川に入りそうだった。 「あーっっ!くそっっ!!」 橋の下へと続く土手を駆け降りる。 「絶対、川に入るなよ!いいな!」 女の子に声を掛けて、俺は川に飛び込んだ。 水を掻き分けて、中央へと向かう。 結構、深いな…。 正直、泳ぎには自信が無い。 だけど、足がつくから大丈夫だ。 そう思って、奥へと進んだ時だった。 ガクリと体が沈む。 「!?」 見上げても見えない空に、水の中に沈んでいるのだという事に気付いた。 水面が、揺らめいているのが、やけに長い時間に感じた。 そこで、意識が途絶えた。

ともだちにシェアしよう!