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《5》
意識が途絶える間際、ふと思う。
(ああ、俺…、死ぬのかな…?)
俺が死んでも、悲しむ奴なんて誰もいないけど。
じゃあ…、別に良いか…。
犬…、助けてやれなかったな…。
俺と違って、あいつが死んだら、女の子は悲しむだろうな。
それが、心残りだけど…。
その、刹那…。
誰かが、水面から近づいてくる。
(母さん…?)
ぼんやりとした人影に、母さんが迎えに来てくれたのかと思った。
だけど、近づいてくるにつれて、それははっきりと形を現す。
(…良次?)
ーーーーー。
目を開ければ、やたらと焦った良次の顔が近くにあった。
どこか冷静に、良次でも慌てる事があるのかとぼんやり思う。
「おいっ…!おいっ!」
「………良…次?」
俺が反応すると、良次は一瞬安堵の表情を見せる。
だけど、すぐにまたいつもの不機嫌そうな顔にった。
「お前、泳げねぇのにあんな深い川に入るとか馬鹿なの?」
「助けてくれたのか…?」
「目の前で死なれたら寝覚めが悪ぃだろうが」
「あ、俺…、犬が溺れてて…」
「助けに川に入って死んでたんじゃ世話ねぇな」
「わ、悪い…。あ、あの犬は…?」
「犬も無事だ」
良次の言葉に胸を撫で下ろす。
よく見ると、自分はパンツ一枚で、濡れた衣服も脱がせてくれたらしい。
良次にまた世話になってしまったと、申し訳ない気持ちになる。
「その、ありがとう…。色々迷惑掛けちまって……」
「………ところで、お前」
不意に、良次の目の色が変わる。
「公園に居たよな?」
良次の言葉に、サーッと体から血の気が引いてくのを感じた。
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