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《2》

勇介には引っ越し先の住所は手紙で送っておいてはいた。 でも、俺が携帯を持っていなかったから、落ち着いたら俺から会いに行くつもりだったのだが…。 どうやら勇介は、俺の送った住所を頼りに会いに来たらしかった。 「勇介、お前住所だけで良く分かったな…」 「利久に会いたくてさ」 そう言って勇介は、はにかんだ様に笑った。 ここ数日、悩んだり肩身の狭い思いをしていた分、勇介の言葉には酷く感動した。 「このっ!嬉しい事言ってくれるじゃねぇかよ!」 「止せよっ…、苦しいだろ!お前、唯でさえ馬鹿力なんだから…!」 肘で勇介を締め上げると、勇介が苦しそうにしながら笑った。 「お前、バンドの方どうなんだよ!」 「まぁまぁかな。今度ライブやるからさ、利久も来てくれよ」 「おお!行く行く!絶対行くよ!」 たった1週間前。 それまでは当たり前だった生活が戻ってきた様な気がした。 だけど、どれだけ願っても、もう二度と元の生活には戻れない。 勇介の存在だけが、大きく変わる前の日常の名残だった。

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