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《6》
よくよく考えれば、此処はもう家の近くだし、良次がいる事は何の不思議でも無い。
だから、別に狼狽える理由なんて無いはずだ。
だけど、気まずい思いをしている相手が急に現れた為か動揺してしまう。
今まで、俺の親密な人間関係なんて、母さんと秋人さん、勇介位のものだ。
気まずい奴と毎日顔を付き合わせなければならない状況なんて、今までの俺の人生の中では無かった。
「帰らねぇのかよ?」
良次に言われて、口籠もる。
何て答えたら良いのだろう。
勿論、帰るつもりではいるけど…。
良次も同じ家に帰る訳だ。
今、帰るという事は、自然一緒に帰る事になる。
夜は、別に寝るだけだから会話も無いし、食事だって良次は用意してくれるけれど、一緒に食ってる訳じゃない。
何を話して良いのか分からなかった。
そうして悩んでいる間に、良次は俺の横を通り抜けて帰路を進む。
「ま、待って…」
思わず、俺は良次を追いかけていた。
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