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月の裏側《1》
俺は、力の限り良次を突き飛ばした。
細身の良次の身体は、簡単に後ろへ倒れる。
良次はと言えば、まさか抵抗されるなんて思っていなかったのだろう。
驚いた顔で俺を見上げてくる。
それにも何だか腹が立った。
「俺…、もう分かんねぇよ…!」
「と、利久…?」
「何なんだよ、お前っ!!人を馬鹿にしてみたり、こんな嫌がらせしたりっ!!」
「お…おい…」
「か、かと思えば、気紛れみたいに優しくして、また嫌がらせして…、俺が振り回されるのが、そんなに面白いかよっ!?」
言葉にすれば、余計に惨めで涙が溢れた。
それを袖で乱暴に拭う。
そして、俺は良次を睨みつけた。
「そんなに出て行って欲しけりゃ、出て行ってやるよっ!!」
「ち、違うっ!」
「うるせぇっ!!ついて来んなっ!!」
怒鳴りつけて、良次を振り切る。
こいつと仲良くなれるはずが無かったんだ。
人を平気で脅したり、嫌がらせをしたり。
そんな奴と一緒に暮らすなんて最初から無理だったんだ。
最初から、無理だって秋人さんに言えば良かったんだ。
そうすれば、
こんな惨めな思い、しなくて済んだんだ。
俺は、出て行く為に、玄関のドアに手を掛けた。
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