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《2》

「利久!!待って!!」 「!?」 急に腕を掴まれて驚く。 「何だよ。手、離せよ!」 「行かないでくれ!」 「は、はぁ?」 散々人に嫌がらせをしておいて、今更行かないでくれとはどういう事なのかと首を傾げる。 俺が出て行くのは、良次にとって都合の良いはずだ。 だけど、当の本人は辛そうに眉根を寄せる。 「こんな事、初めてでどうしたら良いのか分からないんだ…」 「お…、おい…?」 「くそっ!女の子相手なら、こんなみっともない事になったりしないのに…。お前相手だと全然思うように出来ないっ」 「な、何の話だよ…?」 こんな必死な良次の顔なんて、初めて見た。 良次はいつも無表情で不機嫌そうな顔をしていて、取って付けた様な作り笑いしか俺は知らない。 こんな必死で、寂しそうで、泣き出しそうな顔…、知らない。 「出て行かないでくれ…!頼むっ!」 「わ、分かった、分かったから…」 今一つ状況が飲み込めない。 だけど、必死に縋り付いてくる良次の手を払いのける事が、 どうしても出来なかった。

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