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《4》
「利久…、好きだ…」
そう言いながら、良次はそっと俺の体を抱き締める。
見下ろしてくる綺麗な顔は、最初の気に食わない顔と何だか随分違って見えた。
だから、このまま抱かれてしまっても良いかと思った。
大切な母親も、
帰る場所も、
思い出のぬいぐるみも、
どうせ、何もかも失ってしまったのだから。
今更、何があったって、これ以上悪くはならないんじゃないかと思ったし。
そんな俺よりも、こいつの方がよっぽど寂しい目をしていた。
だから、流されても構わないかと思ったんだ。
それに、
これから失うだろうプライドや、
これから訪れるだろう痛みや後悔を支払ってもお釣りがくる位に、
一人ぼっちの俺が今感じている温もりは、
突き放す事が出来ない程、
暖かかったんだ。
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