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《2》
「ごめん、今日は帰って」
「私、絶対別れないからっ」
彼女が最後に言った言葉が、やけに頭の中で響いていた。
玄関のドアが閉まり、良次が鍵を掛ける。
振り返った良次と、目が合った。
「利久…」
「………」
「聞いてたのか…」
「…………だよ」
「え…?」
咽が、やけに渇いて、舌が張り付く。
指先が冷えて震えていた。
「何が…、好きだよ…」
「利久?」
「お前、彼女いるんじゃねぇかよ!?」
「利久…、これは…」
「触るなっ!」
俺は、良次の差し出された手を振り払った。
良次が、悲しげな表情を浮かべる。
何故、良次がそんな顔をするのかと余計に腹が立った。
からかわれていたのは、自分の方なのに。
「利久…」
「お前なんかっ、…大っ嫌いだっ!!」
言い捨てて、俺は自分の部屋に急いで駆け込んだ。
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