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《4》
初めて、母さんが入院してしまった夜。
秋人おじさんの家に預けられたけれど、おじさんの帰りが遅くて、俺は一人で留守番をしていた。
初めての一人の夜は、恐くて恐くて仕方が無かった。
だけど、ぬいぐるみがあったから、それでも何とか乗り越えられた。
でも。
今は、次の日に再会出来る母さんも居なければ、帰ってくるおじさんも、守ってくれるぬいぐるみも無い。
結局、一睡も出来ないまま、朝がやってきた。
「あ…」
部屋から出ると、丁度良次と鉢合わせた。
同じ家の、同じ階に部屋があるのだから、可能性としては十分有り得る事だ。
「利久」
掛けられた声を無視して、良次の横をすり抜ける。
「待って、利久…!話を聞いてくれ…!」
俺は、掴まれた腕を振り払った。
「触んな」
「利久!」
「何なんだよ、テメェ…。もぉ、良いだろ?俺はテメェの遊びに、これ以上付き合えねぇよ…」
「…遊び?」
「彼女いんのに、野郎に好きだとか…、あ、あんな事、よく平気で出来るよな…?」
「!?ち、違う…!」
「俺の事、からかうのは、そんなに面白かったかよ…?」
ギリギリと歯を食いしばり、絞り出した声は震えていた。
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