82 / 346

《4》

初めて、母さんが入院してしまった夜。 秋人おじさんの家に預けられたけれど、おじさんの帰りが遅くて、俺は一人で留守番をしていた。 初めての一人の夜は、恐くて恐くて仕方が無かった。 だけど、ぬいぐるみがあったから、それでも何とか乗り越えられた。 でも。 今は、次の日に再会出来る母さんも居なければ、帰ってくるおじさんも、守ってくれるぬいぐるみも無い。 結局、一睡も出来ないまま、朝がやってきた。 「あ…」 部屋から出ると、丁度良次と鉢合わせた。 同じ家の、同じ階に部屋があるのだから、可能性としては十分有り得る事だ。 「利久」 掛けられた声を無視して、良次の横をすり抜ける。 「待って、利久…!話を聞いてくれ…!」 俺は、掴まれた腕を振り払った。 「触んな」 「利久!」 「何なんだよ、テメェ…。もぉ、良いだろ?俺はテメェの遊びに、これ以上付き合えねぇよ…」 「…遊び?」 「彼女いんのに、野郎に好きだとか…、あ、あんな事、よく平気で出来るよな…?」 「!?ち、違う…!」 「俺の事、からかうのは、そんなに面白かったかよ…?」 ギリギリと歯を食いしばり、絞り出した声は震えていた。

ともだちにシェアしよう!