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《5》

「違う!そんな事思ってない…!」 「離せ…!」 再び掴まれた腕は、今度は簡単には離れていかなかった。 「彼女の事は、何とも思ってない!俺は、お前の事を本気で…!」 「何とも…?」 何とも思っていない女の子と、どうして付き合えるんだろう。 付き合っていた相手を、どうして何とも思ってないなんて言えるんだろう。 やっぱり良次の言葉は理解出来なかったし、 続く言葉なんて聞きたくなかった。 「一方的に、話し合いもしないで、振ったんだろ?」 「え…?」 「そんな、自分勝手な奴の言葉…。信じられる筈無いだろ…!」 「…」 「他にも、彼女いんだろ…。お前の気紛れに振り回されて、女の子が可哀想だ…。俺も…、迷惑だ…」 「利久…、俺は…」 「俺、出てくよ…。もう、お前の顔、見たくねぇ」 良次の顔を見ると、辛い。 たった二日間だったけれど。 好きだと囁かれて、本気にして。 ほんとに短かったけれど、 遊ばれていただけだけれど、 良次の傍は暖かかった。 だから、近くに居たら、きっと好きになってしまうかもしれない。 好きになってから、例え遊びだとしても、良次に飽きられて、あの女の子みたいに呆気なく捨てられてしまったら…。 きっと、立ち直れない。 良次の目の前で泣いてしまいそうで、良次を振り切って行こうとした。 「利久!俺が出ていく…!だから、此処に居てくれ!心配だから、頼む…」 するりと良次の手が頬を撫でて、離れていく。 まるで、スローモーションみたいに、やけにゆっくり見えた。 良次はそのまま踵を返して…、家を出て行った。 「なん…だよ、それ…」 一人取り残されて、途方に暮れた。 ここは、良次の家なのに。 おかしいだろ。 それから3日経っても、良次は本当に帰って来なかった。

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