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《6》

良次が帰ってきたら、ちゃんと出ていく事を話し合うつもりだった。 だけど、良次は、家に帰っても来なければ、学校にも来ていなかった。 広い家で一人で過ごすのは、不安だった。 良次は、ずっとこんな風に一人で過ごして来たのだろうか。 そう思うと、胸が苦しい。 不思議と、自分の事よりも、良次の事を想像した時の方が、ずっと苦しい。 今頃、何処で何をしているのだろう。 「何処に行っちまったんだよ…」 最初に出て行くと言ったのは自分だ。 それなのに、良次が出て行き、もう三日も経ってしまった。 此処は、良次の家なんだから。 出て行くのは、どう考えても俺の方だろう。 良次の行きそうな場所も、馴染みの場所も見当もつかない。 前に良次を見かけた公園にも行ってみたけれど、誰かがそこを訪れた様子は無かった。 そこで初めて、俺は良次の事を何も知らない事に気づいた。 セックスまでしたのに、俺は、良次の名前と年齢位しか知らない。 家族構成も、友達も、何が好きで、何が嫌いかさえ分からず、途方に暮れた。 「馬鹿野郎…」 一人取り残されて呟いた言葉は、良次に向けてなのか、自分に対してなのか、それさえも分からなかった。

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