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《3》

良次との事を、知られている…? 身構えた俺に、それまで真顔だった優がヘラっと笑った。 「な~んちゃって~」 「は…?」 呆然と見詰める俺の肩を、優が叩く。 「冗談だよ!じょ、う、だ、ん!良次の家に住んでるんだろ?そんな恐い顔するなって」 「……」 「あれ?ひいちゃった?」 冗談かと、胸を撫で下ろすけれど、そもそも、良次とは恋人でも何でもない。 恋人。 その言葉に、酷く胸が締め付けられる。 「…恋人なんかじゃないっ」 「分かってるって、ほんの冗談……小野部?」 恋人なんて、良いもんじゃない。 俺は、良次の何も知らない。 ただ、一緒に住んでいるだけで…、所詮ただの他人だ。 恋人みたいに寄り添って眠ったのだって、たった一度きりだ。 その一度きりの温もりが…。 恋しい…。 「ちょっ!?泣いてんの!?べ、別にからかった訳じゃないんだよ!?」 「先生ー!折原が転校生苛めてまーす!」 「ちょっ!?金田っ!テメェ、ふざけんなっ!」 金田と呼ばれた奴が廊下に向かって叫ぶ。 それに対して、焦った様子で更に優が叫ぶ。 いつの間にか涙が溢れていた事に気づいて、慌てて袖で拭った。 「悪い…、何か、びっくりして…」 「小野部びっくりしたら涙出んの?焦ったわ-、苛められてると勘違いされたかと思った」 優のそんな言葉も、遠くで聞こえていた。 恋人に…なれたんだろうか…。 もし、あの時、俺が良次の手を振り払わなければ…。 馬鹿な事を考えている自覚はある。 だけど、もしかしたらと考えて。 また落ち込んだ。

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