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《4》
学校からの帰り道。
学校を出た頃から雲行きが怪しかった。
傘なんて持ってきてないから、足早に帰路を進む。
段々と見慣れてきた景色も、気持ちの所為か、どこか暗く陰って見える。
一人になると、考えるのは良次の事ばかりだった。
優しくされて、嬉しかった。
きっと、自分は優しさに飢えていて、だから良次の事が気になってしまうんだ。
ずっと。
そう、思っていた………。
だけど、違う。
勇介にだって、おじさんにだって、優しさなら貰っていた。
俺…。
良次に優しくして貰うのが、嬉しかったんだ。
きっと、とっくに良次の事を
好きになっていたんだ。
男同士だからとか、そんな事はないって言い訳して、自分の気持ちを誤魔化していただけだったんだ。
そんな事に、今更気づくなんて。
もう、今更気づいたって、遅いのに。
いつの間にか降り出した雨が頬を濡らす。
母さんにお別れを言った日も、こんな風に雨が降っていた。
もっと早く気づいていたら、何か変わっていただろうか。
そしたら、例え良次に他に恋人が居たとしても、気紛れな遊びだったとしても、
もう少しだけ、長く良次の傍に居られただろうか。
「良次……」
こんなにも、恋が苦しいなんて知らなかった。
戻りたい。
何も知らなかった頃に。
良次に出会う前に、戻りたい。
そしたら、こんなに苦しまずにすんだのに…。
俯いて、良次の名前を呟く。
涙なのか、雨なのか分からないものが、頬を滑り落ちて、地面を濡らした。
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