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ピンチ《1》

「小野部ー!一緒に飯食おうぜ!」 「え…?」 昼休み。 優に声を掛けられて、俺は思わず聞き返す。 固まってしまった俺に、優が訝しげな顔をする。 「もしかして、先約ある?」 慌てて首を横に振った。 先約どころか、優以外に学校で話し掛けられる事も無い。 だけど、弁当を持っていない事を思い出して、慌てて断ろうとした俺の目の前に、弁当の包みが差し出される。 「どうせ、弁当も持ってきてないんだろ?好き嫌い無ければ一緒に食おうぜ」 「いや、さすがにそこまでしてもらうのは…。第一、お前の弁当貰う訳には…」 「じゃ~ん、二個あるから大丈夫!」 「え…?」 言いながら、優はもう一つ弁当を取り出してみせる。 まさか、わざわざ俺の分まで用意してくれたのだろうか? 「小野部が食べてくれないと、弁当無駄になっちゃうからさ」 「……あ、ありがとう」 ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちになりながら、俺は弁当を受け取る。 「悪いとか思ってるんなら、ちゃんと食えよー。そんな真っ青な顔してたんじゃ心配すんでしょ?」 何故優がこんなに親切にしてくれるのかは分からなかったが、素直にありがたかった。 「移動しようぜ。誰も来ない穴場があんだよね~」 「あ…、おい…」 戸惑う俺を無視して、優は俺の手を引っ張り、教室を出た。

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