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《2》

「良いじゃん、似合ってる」 「な、なぁ、やっぱりこんな服俺には似合わねぇよ…」 「そんな事ない。次はこっちに着替えて」 あからさまにお洒落な人種が集うような服屋に連れてこられた。 俺は一枚500円のTシャツで十分なのに、良次がみっともないと言うのでこうして買い物に来た訳なのだが…。 一、十、百、千、万、は………八万!? 試着室で値札を確認すると、とんでもない値段に慌てて試着していた服を脱ごうとする。 こんな金があれば、何ヶ月食い繋げると思ってんだ! 服だぞ! ただ、着るだけなのに、おかしいだろ!? もう触れているのも恐ろしくて、俺は慌てて洋服を脱いだ。 「着がえたか?」 「ちょ…!?」 試着室のカーテンの隙間から、良次が覗き込む。 「何やってんだ、お前」 半裸の俺に、良次が呆れた表情をしている。 「早く着ろよ。襲うぞ」 「いや、き、着たんだけど…」 「はぁ?着たら見せろっつっただろ?」 「や、やっぱり俺には似合わねぇよ」 「じゃあ、こっち着てみろ」 「い、いや、だから…」 良次の手には、また新しい服が用意されていて、ギョッとする。 「いや、だ、だから、こんな高い服、俺には似合わないって」 「はぁ?俺の見立てが気に入らねぇのかよ」 「そ、そうじゃないけど…」 正直、さっきの値札に書かれていた値段のインパクトが強すぎて、洋服のデザインなんて頭に入って来ない。 「じゃあ、早く着がえろ。終わったら、ちゃんと俺に見せろよ」 強引に洋服を押し付けられて、容赦なく試着室のカーテンが閉められる。 俺は、馬鹿高い洋服を抱えて途方に暮れた。

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