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《3》
仕方なく良次に渡された服に袖を通す。
多分、これを着ない限り解放してもらえなさそうだ。
鏡に映った姿は、やっぱり着慣れない物のせいか違和感がある。
第一、自分には不相応だし、着ているというよりは、完全に服に着られているという感じだ。
「着替えたか?」
「りょ、良次…、やっぱり…俺には似合わな…」
「さっきのジャケットも良かったけど、こっちは可愛いじゃん」
「い、いや…、あのな…」
「お決まりでしょうか?」
俺の声を遮って店員が声を掛けてくる。
「試着したの、全部貰う」
「はぁ!?」
「今着てるのは、そのまま着ていくからタグ切って」
「はい、かしこまりました」
慌てふためく俺を蚊帳の外で、良次は店員と話を進めていく。
「いや、良次!俺、そんな金ねぇよ…」
「馬鹿だな。お前から金取る訳無いだろう」
「や、そういう問題じゃ…」
「お客様、失礼致しますね」
「あ゛…!!」
背中から、パチンとタグを切る音が響く。
タグを切ってしまったら返品不可だという事位は、さすがに俺でも知っている。
第一、着て帰る事が出来るなんて知らないし。
トータルの金額なんて、見るのも恐い。
完全にフリーズしている俺に構わず、良次はカードを取り出し支払いをしていた。
高校生なのに、カードを使用して買い物をしている良次に更に目眩がしそうだった。
高校生って、カード使えるのか…?
急に、良次が自分とは違うのだと思い知らされて、何だか無性に胸がモヤモヤした。
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