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《3》
「観覧車乗る?」
俺が観覧車を見上げてる事に気づいて、良次が問いかける。
「良いのか!?」
俺が興奮気味に言うと、良次が笑う。
観覧車は人気で、沢山の人が並んでいた。
「寒くないか?」
「平気だ」
良次に買って貰った上着が暖かいから、寒さは気にならなかった。
それに、繋いだ良次の手から体温が伝わる。
やっぱり、周りの視線は痛かったけれど、なるべく見ない様にした。
1時間位並んで、ようやく順番が回ってくると、俺は急いで観覧車に乗り込んだ。
「良次!すげぇ!どんどん上がってく!」
「そりゃそうだろ」
「綺麗だな!な!良次!」
「そんなに好きなのか?観覧車」
「何か空飛んでるみてぇでドキドキするじゃねぇか!」
それに。
「それに、母さんも好きだったんだ」
「………」
「あ…、悪い…。俺、母さん母さんって…、母さんの事ばっか話して…」
黙り込んだ良次の反応に、俺がことあるごとに、母さんと言うから、引いてしまったのかもしれないと慌てる。
だけど、良次は首を横に振り、自嘲気味な笑顔を浮かべる。
「俺は…、両親と出掛けた事も無ければ、両親が何が好きなのかすら知らない」
「え………?」
「まだ、幼い頃は、それでも好かれる努力をしたんだけど、何をやっても両親は俺に関心が無くてさ」
「……………」
突然の良次の言葉に、声も出なかった。
「だから、そういう思い出がある利久が、少しだけ羨ましいよ」
「良…次…」
「きっと優しい女性だったんだろうな。会ってみたかったよ」
良次の言葉に、どうしようも無く胸が締めつけられた。
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