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《4》
そんな事があるのだろうか。
親子なのに、自分の子供に関心が無いなんて。
母親と仲が良かった自分には信じられない。
「俺は母親とは血が繋がって無くてさ。子供の頃は、そんな事知らなくて、必死に母親に好かれようとしたよ。テストで良い点を採れば褒めて貰えるんじゃないか、プレゼントを渡せば笑ってくれるんじゃないかって、ガキなりに必死に考えてたんだ」
良次が窓から下を見下ろして淡々と告げる。
「ある日さ、本人に言われたんだ。俺は父親と他の女の子供だってさ。本当の母親は、幼い頃に生まれたばかりの俺を置いて出て行った薄情な女だって」
まるで、他人事の様に告げる良次が、俺にはショックだった。
「父親も仕事しか興味の無い人で、あの人には褒められた事も無ければ、叱られた事すら無いな。俺なんて、まるで存在してないみたいな感じでさ…。そんな家に居るのが居たたまれなくて、秋人さんに今の家を紹介して貰って、中学に上がった頃から気ままな一人暮らしを…利久…?」
「ふっ…く……」
「何でお前が泣くんだよ、忙しい奴だな」
何でもない事の様に話す良次が悲しかった。
まるでその時の寂しさも、悲しさも過去に置いてきてしまった様だった。
そんな訳無いのに。
「泣いたり、笑ったり、また泣いたり…。そんな泣いてばっかいると、目、溶けちまうぞ」
「だって…」
「その代わり、祖父母には可愛がって貰ったから大丈夫だ。祖母はもう他界しちまったけどな。変な話になっちまって、悪かった…」
良次の事を知りたいと思っていた。
だから、良次が自分の事を話して欲しいと思っていた。
だけど、子供の頃から良次はずっと寂しい思いをしていたんだ。
俺の横に良次が移動して、そのまま抱き締められた。
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