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《12》

「喧嘩はしない…ね。んな強いのに、何でだ?」 「俺が問題を起こしたら、秋人おじさんやお前に迷惑がかかるし…、それに元々喧嘩なんかしたくてしてたんじゃねぇ…」 「………」 「たまたま絡まれる事が多くて、それを片っ端からぶっ飛ばしてたら、いつの間にか変に噂が広まっただけだ。…カツアゲとか、イジメとか、そういう胸くそ悪いのは見ちまったら黙ってられねぇけど」 「……なるほどな」 良次は妙に納得した様に頷いた。 「お前が噂の冷酷無慈悲な小野部利久だって気づかない訳だ」 俺、どんなヤバイ奴って噂が流れてるんだ…? 噂に疎い自分には分からないけれど、きっと犯罪者紛いの噂が流れていそうだと内心頭を抱える。 だけど、それよりももっと心配な事があった。 「な、なぁ…、俺の事、嫌いになった…?」 「は…?」 意を決して尋ねると、良次が眉間に皺を寄せて聞き返す。 あまりにも呆れた顔で見つめられて、妙に焦ってしまう。 「だ、だって、俺の事探してたんだろ?お前の仲間、怪我させちまったし…」 相原の様に、良次も内心怒っているのではないかと、そう思った。 なんとなく気まずくて、俯く。 「そんな事かよ…」 良次の言葉に驚いて、弾かれた様に顔を上げる。 そして、良次の顔を凝視した。 「出会う前の事だ、今更だろう。そんな事で嫌ったりしねぇよ」 「良次…」 「それに、あいつらからは集団でお前を襲ったが返り討ちにあったって報告を受けてる。お前が悪くねぇのは分かってるよ。寧ろ、正当防衛だろ」 身体を引き寄せられて、そのまま抱き締められる。 その暖かさに安堵する。 「そっか…」 嫌われてないなら良かった。 「まぁ、あいつらが束になってあのザマじゃ、小野部って奴はどんなバケモンかと思ってたけどな」 冗談めかして言う良次に複雑な気持ちになる。 恋人にバケモノ扱いを受ける事になるとは、と。 不意に、良次の表情が真剣なものに変わった。 「お前がしたくもない喧嘩なんてしなくても良いように、俺が守ってやるよ」 そう言い切った良次があまりにも格好良くて、俺は思わず頷いていた。

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