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恋と呼ぶには《1》~良次視点~

ー良次Sideー 最初、秋人さんに頼まれた時は、正直面食らった。 まさか、この家に居候が来るなんて考えた事も無い。 干渉されたり、家でまで人に気を遣うのが嫌で始めた一人暮らしだったからだ。 そうは言っても、実の父親とはもう何年も会っていない。 物心ついた頃から、父親は仕事にしか興味の無い人だった。 遊んでもらった事は勿論、ろくに会話した記憶すらない。 血が繋がらない母親の、俺を見る目は、まるでゴミでも見る様だった。 それが、父親と他の女との間に出来た子供に向ける嫌悪と憎悪の眼差しだと気づいたのは、小学校の高学年に上がった頃だった。 母親と血の繋がりが無い事を知った俺は、 何故だか心底ほっとしたのを覚えている。 それは、どれだけ努力しても、母親の関心が自分に向かない事に対しての謎が解けた安心感だったのかもしれないし。 子供の義務として、母親に好かれなければという責任からの解放感だったのかもしれない。 そんな子供に関心の無い両親の代わりに俺を育ててくれたのが、祖父母だった。 優しい祖父母に育ててもらっていたが、いつだったか使用人が話しているのをちらほらと聞く様になった。 俺が、母親ではない別の女と父親の子供である。 そんな噂話に、好奇の目や、憐れみの目を向けられた。 それにうんざりし、俺は高校に上がってすぐに一人暮らしを始めた。 正直、知らない他人を自分のテリトリーに入れるのは気が引ける。 だけど、他ならぬ尊敬している秋人さんの頼みを断るなんていう選択肢は、最初から無かった。

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