156 / 346
《5》
「なら、これからは極力大人しくしておいた方が良い。お姫様程の有名人なら、いつそういう輩に目をつけられても、おかしくないからね」
「あ、ああ」
自分が有名人と言われる事には些か違和感があったけれど、変な奴に目をつけられては堪らない。
俺が素直に頷いたのを見て、志水が満足そうな顔をした。
「良次はそれを危惧して、俺達に君を守る様に頼んだんだろう」
「良次が…?」
突然出てきた良次の名前に驚く。
「良次は頭が切れる。ただ単に場を納める為だけに、お姫様を御披露目した訳じゃないよ」
「え…?」
「お姫様が小野部利久だって気づいた時点で、グループ内に君の事を公表した方が君にとっての安全が保証できると踏んで連れて来たんだ。多少の反対は覚悟の上だろう。グループの中なら、良次が決めた事に逆らう奴はまずいないからね」
「良次…」
鼻の奥がツンと痛む。
守ってくれると言ってくれた。
最初の出会いは最悪だったけれど。
独りぼっちの、何の取り柄もなくて。
喧嘩で負けた事が無い位しか自慢話も無い自分に、喧嘩をもうしなくても良いと言ってくれた。
本当に、何にも出来ないんだ。
頭も悪いし、良次みたいに生活能力がある訳でもない。
でも、良次はそんな俺でも、傍に置いてくれるって言うんだ。
こんな自分に、家族になろうと言ってくれた。
お姫様なんて呼ばれるのも、守ってもらうなんてのも、自分のキャラじゃない。
だけど、良次が俺の事を思ってくれている事が幸せ過ぎて、胸がいっぱいだった。
ともだちにシェアしよう!