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《3》
「良次!?」
「おいで、好きなケーキを買って帰ろう」
一人では勿論無理だけれど、男2人でケーキ屋に入る事にも抵抗がある。
尻込みをする俺の手を強引に引っ張って、良次は店の中へ入っていく。
そして、ショーケースの前で俺の背中を押した。
「どのケーキが好きなんだ?」
言われてショーケースを見るけれど、どれも俺が食べた事があるケーキとはあまりにも違う。
「し、白い普通のケーキしか食った事ないから、こんな綺麗なのどんな味がするのか分からねぇ…」
どれも美味しそうではあるけれど、どれを選んで良いのか分からない。
困り果てた俺に、良次がまた笑った。
「すみません」
「はい!」
「おすすめってどれですか?」
「こちらのチョコレートケーキはガナッシュになっていて、男性の方にも人気ですよ。こちらのフルーツのタルトも当店のお薦めです」
可愛い制服を着た女の子の店員さんが、真剣な表情でケーキを選ぶ良次の事をうっとりとした目で見つめている。
「俺も甘い物はあまり食わないからな…」
「………」
「すみません。ここに出てるの一種類ずつ全部下さい」
「かしこまりました」
「りょ、良次!?」
「全部食ってみれば、次からどれが好きか分かるだろう」
「でも…!」
確かにそうかもしれないけれど、いくら何でも…。
全部なんて、一体いくらになるんだろう。
考えただけでも恐ろしい。
「ケーキ、好きなんだろ?」
そう言って良次が笑うから、それ以上は何も言えなかった。
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