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《16》
「これからお互いの事を知っていこう」
「良次…」
「利久の事も教えて…」
「俺の…?」
「俺だって、利久の事誰よりも理解したいと思ってる。お前だけじゃないよ」
「そっか…」
良次も、同じ様な気持ちになるのか…。
自分だけじゃない。
そう思うと、少しだけ心が軽くなった。
「今はお互いの事をよく知らないけれど、これから一緒の時間を重ねていったら、きっと誰よりもお互いの事が分かる様になるよ」
「…うん」
「何せ、これから先の人生ずっと一緒にいるんだから」
「ずっと…?」
「そう、ずっと」
「本当に?」
「当たり前だろ」
どうして良次は、俺が欲しい言葉をいつもくれるんだろう。
この間まで他人だったのに、まるで俺が思っている事が全部伝わっているんじゃないかと思う程に。
良次に出会わなければ、きっと今頃喪失感でいっぱいだったかもしれない。
今だって、無性に母さんに会いたいと思う時がある。
もう無理だって。
そう、自分に言い聞かせても、どうしようもない寂しさに襲われる。
母さんがいなくなって、良次が現れて。
毎日が目まぐるしく変わっていった。
良次が一緒にいてくれたお陰で、俺は毎日寂しさを感じながらも、不思議と安心していられた。
良次を怖いと思った時もあったけれど、今は誰よりも頼りにしている自分がいる。
「利久…?」
良次に出会うまで。
「泣いてるのか…?」
こんなにたくさん、嬉しくて泣いてしまう事があるなんて知らなかった。
「お前は、本当によく泣くな…」
「お前が…っ、泣かせる様な事ばっか言うからだ…」
こんなに、自分が女々しいなんて知らなかった。
「利久…、好きだよ…」
良次に出会うまで、こんなに誰かを好きになるなんて、思った事も無かった。
俺は、良次に抱き締められて、幸せを噛み締めていた。
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