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初恋ラプソディー《1》
居間でテレビを観ている時だった。
「利久…」
呼ばれて振り返った瞬間、突然ふわふわしたモノを押し付けられた。
「え…!?」
驚いて、俺は自分の手の中の物を確認する。
「こ、これって…」
「もう廃盤になっててさ、探すのに手間取って時間が掛かっちゃって」
俺の腕の中には、以前捨てられてしまったぬいぐるみがすっぽりと収まっていた。
いや、捨てられたぬいぐるみよりかなり綺麗に見える。
何しろあのぬいぐるみは、俺が子供の頃から毎日抱いて寝ていたものだ。
もっと黒ずんでいたし、所々解れてボロボロだった。
「勝手に捨てて悪かった」
だから、良次がゴミだと思って捨ててしまっても仕方ない。
「利久…」
そう、何度も思おうとした。
「か、母さんから貰ったぬいぐるみだったんだ…」
「……………」
だけど、簡単にそう割り切れなくて。
思い出す度に胸が痛くて、苦しくて。
「すげぇ、大事だったんだ…」
「ごめん、悲しい思いをさせてごめんね」
良次に抱きしめられて、子供みたいに泣いた。
捨てられてしまったぬいぐるみの事を思い出して悲しいのか、
それとも良次からのプレゼントが嬉しいのか、
全く分からなくて、
それでも、涙は後から後から溢れてきた。
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