202 / 346

《4》

◇◇◇ 懐かしい匂いがする。 甘い卵焼きが焼ける匂い。 包丁がまな板を叩く音が響いている。 母さんが食事の準備をしている間、俺は、ぬいぐるみのりょうちゃんに保育園での出来事を話して聞かせていた。 『ゆーすけがね。ひーちゃんの事、可愛いってゆうの。ひーちゃんは、男の子なのに、なでなでして意地悪するの』 ぷくっと丸いほっぺを更に膨らませて、りょうちゃんに不満を漏らす。 そういえば、子供の頃は成長期が遅くて女の子みたいな容姿が酷く嫌だった事を思い出す。 当時は勇介に女の子の様な扱いを受けてからかわれていた。 その時の名残なのか、勇介は高校生になった今でも、その冗談を言うけれど。 心配をしなくても、小学校に入った頃からバキバキ成長して、1番前の列だった身長は中学に上がる頃には1番後ろになっていると子供の俺に教えてやりたい。 一頻り一人で話していた俺は、満足そうにりょうちゃんに問いかける。 『りょうちゃん、りょうちゃんはひーちゃんの事好き?』  返事は返ってこないけれど、何だかりょうちゃんの口元が笑っている様で嬉しくなる。 食事の準備を終えた母さんが戻ってくると、俺はりょうちゃんごと母さんに抱きつく。 『りょうちゃんは、ひーちゃんの事いつも守ってくれるんだよね!』 『そうよ』 母さんが優しく微笑んで頷く。 『だってりょうちゃんはね…』 ◇◇◇ そこで、夢は終わりだった。

ともだちにシェアしよう!