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《5》
昔の記憶っていうのは、酷く断片的で、所々が抜け落ちてる。
そういう物だとは思っているけれど、最近は何故か子供の頃の事を思い出す事が増えた。
母さんが、りょうちゃんを何か特別だと言っていた様な気がする。
それは、酷く曖昧な記憶だけれど、とにかくりょうちゃんは凄いんだと、小さい頃からそう思っていた。
母さんに言われた話も、何だったか考えていたけれど、一向に思い出せない。
そして、いつの間にかそんな夢を見た事さえ忘れてしまった。
夕方、良次と買い物に出掛けた。
散歩がてら、いつものスーパーよりも遠い場所に買い物に行った。
良次が急に手を握るから、驚いて周りを確認する。
幸い周りに人影は無かった。
良次の事だから、ちゃんと確認済みなのだろう。
俺は、ほっと胸を撫で下ろしてその手を握り返す。
良次に手を引かれて、夕闇の中を歩いて行く。
見知らぬ土地の、見知らぬ道を薄闇が迫る道を延々と。
何処を歩いているのかも分からない。
だけど、不安は無い。
良次と一緒なら、何処に行くのも怖くない。
この手を繫いでいれば、何処にだって行ける気がした。
りょうちゃんを頼りにしていた様に、今は、良次が俺の心の拠り所だとはっきり気付かされる。
どれだけ歩いただろう。
きっと、まだそれ程遠くへは来ていないけれど、徒歩では三十分程歩いたかもしれない。
ある場所に差し掛かった時だった。
ふと、俺は足を止めた。
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