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《8》

ある大きな木の前に差し掛かった時だった。 俺は、幼少の頃、ここで迷子になってしまった事を思い出した。 ◇◇◇ 「ふぇ…」 見知らぬ景色に気づいた俺は急に不安になり、一人で泣いていた。 初めてのお葬式。 まだ幼かった自分は、初めての遠出に浮かれて、 母親とはぐれて、迷子になってしまった。 もしかしたら、もう二度と母さんに会えないかもしれない。 今考えればそんな事はある筈が無いのだけれど、当時の俺は本気でそう思って恐怖を感じていた。 最初こそ、冒険気分で歩いていたけれど、気づけば周りを見渡しても母親の姿は見えない。 しかも時間は夕暮れ時だった。 辺りは徐々に日の光を飲み込んでいく。 不意に聞こえるカラスの鳴き声さえ、不気味に思えビクビクと震えてしまう。 もう、自分は帰れないのだ。 大好きなお母さんにももう二度と会えず、怖いオバケに食べられてしまうんだ。 そう思い、悲しみに暮れていた。 その時だった。 「泣いてるの?」 急に声を掛けられて、俺は心底驚いて跳び上がった。

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