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《9》
「怖がらないで」
ビクビクと頭を両手で抱えてしゃがみ込む俺に、優しい声が上から降ってくる。
「見覚えが無いけど、君は何処の子?」
恐る恐る深く被っていたフードの隙間から覗き込んで、また驚いて固まってしまう。
声を掛けてくれたのは、自分よりも少しだけお兄さんに見える正装をした美少年だった。
あんまりにも綺麗なお兄さんは、自分にはキラキラ輝いて見えた。
そう、まるで、お母さんに読んで貰った、絵本の王子様みたいだと思った。
暫くうっとりと見とれてしまっていたけれど、すぐに迷子になってしまった事を思い出す。
「ふぇ…、ひーちゃん。迷子なのぉ」
再び泣きじゃくる俺に、王子様は困った様に眉を寄せる。
「ひーちゃんって言うの?」
コクリと頷けば、王子様は優しく微笑む。
「ひーちゃん、甘い物は好き?」
泣きながらもコクコクと頷けば、
王子様が鞄から何かを取り出す。
「手を出してごらん」
「…?」
不思議に思いながらも片手を出せば、そこにコロンと何かが乗せられる。
「…う?」
「ふふ、チョコレートは好き?」
キャンディ型の包みに入った、見た事も無い綺麗なチョコレートが手の平の上に乗っていた。
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