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《12》

「今すぐには、法律とか、経済的に無理なんだ。僕はまだ子供で親の監視下の元で生活しているから。でも、いつかはお祖父様の跡を継いで、社長よりもっと偉くなるんだ」 「???」 「そうしたら、必ずひーちゃんの事を迎えに行くから。僕と結婚して、僕とひーちゃんとひーちゃんのお母さんと三人で暮らそう」 王子様の言っている事は、子供の自分には難しくて全く分からなかったけれど、とにかく三人で暮らそうと言っている事だけは分かった。 今考えれば、俺と然程歳も変わらなそうなのに、随分と 大人びた事を言う少年だった。 けれど、男の俺に結婚しようという位だから、彼もまだ年相応の子供だったのだろう。 その後の事は酷く曖昧で、 多分王子様が、俺を母さんの所まで連れて行ってくれた気がする。 何だか朧気な記憶の中で、母さんが泣いていた様な気がする。 あれは、誰かの葬式だったからなのか、俺が心配を掛けてしまったせいだったかは分からないけれど、いつも笑顔の母さんが初めて涙を見せたのは幼心に衝撃だった。 結局、王子様とはそれっきりで、会う事は無かった。 俺は最初こそ、毎日王子様が迎えに来てくれるのを待っていたけれど、月日が過ぎると共に、そんな出来事さえ忘れていった。 ◇◇◇ 通りでこの町に引っ越してきた時、見覚えがあると思った。 子供の頃に訪れた事があったのだ。 それも、初恋の思い出の場所。 きっとあの少年は、あんな事もう覚えてはいないだろうけど。 何だか、思い出せて良かった。 それと同時に、ふと疑問が過ぎる。 「俺…、自分は違うと思ってたけど、本当は物心ついた時から男が好きだったのかな…」 ポツリと思ったことをそのまま呟いてしまう。 ハッと我に返って慌てて良次の方を見ると、良次が驚愕の表情をしていた。

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