223 / 346
《25》
いや、だけど…。
思い出の中の王子様は黒髪だったし、イメージとは違う気がする。
第一、目の前にいる志水は透き通る様な金髪をしている。
そう考えて、ふと先程の会話を思い出した。
志水は子供の頃、黒髪だったと言っていた。
「志水さ…、藤ノ宮町のでっかい斎場って知ってるか…?」
「斎場…?」
俺の言葉に、志水は一瞬顎に手を当て、考える。
急に斎場なんて言われたから、すぐにはピンとこなかったのだろう。
だけど、そんな俺の奇妙な質問にも、志水は訝しげな顔もせず答えてくれる。
「…ああ、藤ノ宮斎場の事だね。この辺で斎場と言えば、一カ所しかないから。昔からこの辺りで葬儀って言ったら、全部あそこで行われてるよ」
「し、志水も…、あの斎場に行った事…、あるのか?」
「え?そりゃあ、あるけど…」
もし、志水が思い出の王子様だったら。
あの日助けてくれた御礼が言いたい。
だけど、子供の頃の事だし、覚えていないかもしれない。
「お姫様…?大丈夫?」
急に近くなった志水の声に、驚いて顔を上げると、すぐ目の前に志水の顔があって、更に驚く。
「…あ、な、何でもねぇ…!悪い!」
「え?お姫様…!?」
急に走り出した俺の背後で志水の声が響く。
どうして逃げてしまったのか、自分でも分からない。
きっと、優に変な事を言われたからだ。
良次と、思い出の王子様のどっちを選ぶ?
なんて。
ともだちにシェアしよう!