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《25》

いや、だけど…。 思い出の中の王子様は黒髪だったし、イメージとは違う気がする。 第一、目の前にいる志水は透き通る様な金髪をしている。 そう考えて、ふと先程の会話を思い出した。 志水は子供の頃、黒髪だったと言っていた。 「志水さ…、藤ノ宮町のでっかい斎場って知ってるか…?」 「斎場…?」 俺の言葉に、志水は一瞬顎に手を当て、考える。 急に斎場なんて言われたから、すぐにはピンとこなかったのだろう。 だけど、そんな俺の奇妙な質問にも、志水は訝しげな顔もせず答えてくれる。 「…ああ、藤ノ宮斎場の事だね。この辺で斎場と言えば、一カ所しかないから。昔からこの辺りで葬儀って言ったら、全部あそこで行われてるよ」 「し、志水も…、あの斎場に行った事…、あるのか?」 「え?そりゃあ、あるけど…」 もし、志水が思い出の王子様だったら。 あの日助けてくれた御礼が言いたい。 だけど、子供の頃の事だし、覚えていないかもしれない。 「お姫様…?大丈夫?」 急に近くなった志水の声に、驚いて顔を上げると、すぐ目の前に志水の顔があって、更に驚く。 「…あ、な、何でもねぇ…!悪い!」 「え?お姫様…!?」 急に走り出した俺の背後で志水の声が響く。 どうして逃げてしまったのか、自分でも分からない。 きっと、優に変な事を言われたからだ。 良次と、思い出の王子様のどっちを選ぶ? なんて。

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