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《29》
「あ、あのさ…」
言いかけて、躊躇する。
志水との帰り道に、気になった事を聞こうかどうか迷っていた。
聞いてしまえば、予想が確信に変わってしまいそうで、それが俺の口を重くした。
けれど、ずっとモヤモヤした気持ちのままでいるのも嫌だ。
俺は、こっそり心の中で気合いを入れた。
「志水、志水がくれたチョコレートって、どこに売ってるんだ?」
「え?チョコレート?」
真剣な顔で聞く俺と質問の内容が結びつかなかったのだろう。
志水は、パチパチと瞬きを数回繰り返す。
「いや、そのさ、子供の頃、志水がくれたチョコレートと同じチョコレートを貰った事があるんだ。けど、この包み紙のチョコレート見た事なくて」
志水は、一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐ微笑む。
「ああ、そうか……」
何故か納得した様に、志水は俺をマジマジと見つめると、さっき俺にくれたチョコレートと同じものを一つ取り出した。
「このチョコレートはね、俺の父親が海外に仕事で行くと、必ず買ってくるものなんだ」
「海外?」
「そう、子供の頃から大好きなチョコレートで、フランスに本店があるんだけど、日本では売ってないんだ。だから、お姫様が見た事がなくても不思議じゃないよ」
「そう…なんだ」
だから、このチョコレートが売ってるのを見た事がなかったんだ。
長年の謎が解けたと同時に、どこかで納得している自分がいた。
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