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《32》

あの初恋の時よりも、もっと、もっと暖かくて、幸せで、なのに胸が苦しくて、泣いてしまいそうな位。 大切な気持ちを知ってしまった。 良次がいなければ、そんな気持ち、ずっと知る事なんてなかったかもしれない。 志水が子供の頃の約束を覚えていてくれて、ずっと俺の事を探してたとしたら、俺は凄く最低なヤツだと思う。 すっかり忘れてしまっていたどころか、 思い出した後も、子供の約束だと思っていた。 たかが、ガキの口約束。 どうせ、相手も忘れているだろう、なんて。 あの幼い約束を、誠実に守ろうとしてくれていた志水に対して、あまりにも酷い仕打ちだ。 だけど、自分の気持ちを自覚した今、その気持ちに嘘はつけない。 志水が俺を責めたとしても、精一杯謝って、正直な気持ちを伝えよう。 そう思って頭を下げた時だった。 「なんてね」 そう言って志水は笑った。 「………へ?」 急に笑顔になった志水の意図が分からずに、俺は思わずマヌケな声を漏らす。 「だそうだよ、良次。お前も意地張ってないで、素直になりなよ」 志水の言葉に驚いて、振り返ると、玄関の側に良次が何とも言えない表情で立っていた。

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