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《35》

良次と、久しぶりに目が合った気がする。 良次の笑顔が酷く久しぶりに感じられて、心臓が締めつけられた。 「参ったな………」 本当に、困った様に深い溜め息を吐く良次に、一瞬舞い上がった気持ちが、再び深い不安の中に沈んでいく。 勝手に良次の事を聞いてしまった事を言っているのだろうか。 また、自分は無神経に良次の困る事をしてしまったのかと焦る。 「か、勝手に聞いたら、駄目だったか?」 「え?」 「ご、ごめん、ごめんなさい」 「利久?」 声が震える。 声だけじゃない。 手も、足も、体全部が震えていた。 良次に嫌われてしまうのが、堪らなく恐い。 愛想を尽かされてしまったかもしれないと、そう思うと、強く縋りつきたいのに、うまく手に力が入らない。 「俺、悪い所があったら、治すからっ、だから、嫌いにならないで…」 「なっ…!?」 俺の言葉に心底驚いた顔をして、良次が俺の肩を掴む。 「俺が利久の事を嫌いになるなんて、そんな事あるはずが無い…!」 「でも…、俺の事、ずっと避けてただろ?」 「………そう、だな。俺が悪いな…。利久を不安にさせちゃったね」 良次が安心させるように俺を抱きしめて、幼い子供をあやすように、ポンポンと背中を叩く。 抱き締められた感触が、酷く久しぶりに感じられる。 「俺、良次に嫌われたんじゃねぇの…?」 「俺が利久を嫌いになるなんて、あり得ない」 「…ほんとに?」 「ごめんね、利久にかっこ悪い所を見られたくなかったんだ」 「かっこ悪い所…?」 「子供の頃の話に嫉妬したり、羨ましがったり、そんなのかっこ悪いだろう。利久に幻滅されたくなかったんだ。…結局、全部言う羽目になって、最高にかっこ悪い事になっちゃったけどね」 眉を寄せて俯きながら話す良次は、そんなは表情も綺麗だった。 優しく話してくれる声も、眼差しも、俺は向けられるだけでこんなにドキドキして、幸せで。 そんな良次がかっこ悪いなんて、そんな事あるはずないのに。 「俺は…、良次がどんな時だって側に居たいし、色んな良次を知りたい」 「利久…」 「それに…、良次はいつだってかっこいいよ」 ちょっと照れながらそう言えば、良次が優しく微笑んでくれて、さっきまでの不安が嘘みたいに消えてしまう。 「たくさん寂しい想いをさせてごめん。好きだよ、利久」 「二人とも俺の事忘れてるよね、完全に」 やれやれと志水は苦笑いを浮かべながら、そんな二人のやりとりを眺めていた。

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