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《36》

そういえば志水の前だった事を思い出して、俺は慌てて良次の腕からすり抜ける。 良次も志水の存在を思い出した様で、今まで俺に向けられていた優しくて柔らかな視線は、一変して、射殺す様な鋭いものに変わる。 流石あれだけ大勢の人間を纏めるヘッドたけあって、その迫力は半端ない。 その表情が怖すぎて、俺の喉の奥でヒッという悲鳴が引っかかった。 だけど、志水は、良次に構わず俺に話し掛けてくる。 あんな良次の視線もスルーして、俺に向き合う志水の精神力の強さにも圧倒されてしまう。 俺だったらあんな視線、とてもじゃないけど耐えられない。 「嘘をついてしまってごめんね、お姫様」 「嘘?」 突然の志水の言葉に、何の事か分からずに聞き返す。 「うん、お姫様の初恋の王子様は俺じゃないんだ」 「え!?」 「本当にごめん」 そう言って謝る志水に、少しの間固まっていた俺は、ハッと我に返る。 「あ、いや、…そっか、そうなんだ…、ぜ、全然大丈夫だから…!」 志水が本気で告白をしているんだと勘違いして、真に受けてしまった事が急に恥ずかしくなり、慌てて首を横に振る。 そうだよな。 よく考えれば、志水みたいな美少年が俺なんかに告白する事自体おかしな話だ。 良次が俺を好きになってくれたのだって、奇跡みたいなものだと思うし、そもそも俺は誰かに好きになってもらえる様な容姿でも人柄でもない。 きっと、良次と付き合って、感覚が麻痺していたに違いない。 そうでなければ、志水の告白を、鵜呑みにするなんて事は、きっとなかっただろう。 志水は、俺の初恋の話を聞いて、良次と俺が仲直りするきっかけの為に、わざわざこんな事をしてくれたんだ。 ほんと、恥ずかしい。 気をつけよう。 俺は、そう心の中で反省した。

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