235 / 346
《37》
今まで黙っていた良次が、俺と志水の間に入ってくる。
「お前は今後、利久と二人きりになるな」
「心配しなくても、もう今後ちょっかいかけたりしないよ」
「ハッ、どうだかな」
「ちょ、ちょっと、待てよ!志水は、俺達を仲直りさせてくれる為に、あんな事言っただけなんだから、そんな怒らないでくれよ!」
「あのね、利久。利久のそういう純粋な所も俺は好きだけれど、少しは自分の可愛さを自覚して欲しい」
「はぁ!?」
こんなガタイの良い自分を捕まえて、可愛さを自覚しろなんて、どんな罰ゲームだ。
良次が俺の事を可愛いと本気で言っているのだという事は分かる。
だけど、良次以外の奴が俺の事をそんな風に思うなんてあり得ない事だ。
こんな事を毎日繰り返して言われるから、俺の感覚までおかしくなってしまうんだ。
「俺の事を可愛いなんて思うのなんて、良次ぐらいだろ!」
「男はみんな狼なんだから、気をつけないと利久みたいな純粋な子なんて、すぐに騙されて食べられちゃうよ!」
小さい子に言い聞かせる様に俺に告げる良次の言葉に、俺は本気で頭を抱えた。
「それだけ、良次はお姫様に惚れてるんだよ」
「志水、ごめんな…」
「まぁ、もしもお姫様が良次に愛想が尽きて僕を選んでくれたら、しっかり責任はとるつもりだから」
「ええ!?」
志水まで悪乗りして、俺をからかい始める。
また冗談だと分かっていても、動揺してしまう。
本当に、そういう冗談は心臓に悪いからやめて欲しい。
「うるせぇ、さっさと帰れっ!」
苛立ちながら良次が叫ぶ。
「ははは、じゃあ、邪魔者は消えるから、お幸せに」
志水は踵を返すと、ヒラヒラと手を振って、元来た道に歩を進める。
「初恋は、叶わないっていうけど…」
誰に言うでもなく、志水は呟く。
「・・・本当に、叶わないんだなぁ」
ぽつりと呟いた志水の言葉は、誰に届く事もなく、風に攫われて消えていった。
ともだちにシェアしよう!