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《38》
「利久…」
二人きりになると、良次が愛おしそうに俺の名前を呼んで手を握ってくる。
それが、嬉しくて幸せで、俺は良次の手を握り返した。
「俺さ、どんな良次でも、側に居て欲しいからな」
俺は良次の瞳をじっと見つめる。
「もし、何か嫌な事があっても、ちゃんと言葉にして怒ってくれた方が、傷つけないように避けられるより、ずっとマシだ」
「…これからは、利久の側で、悩んだり嫉妬したりするよ」
そう言って、良次は申し訳なさそうに笑った。
「良次…」
「結局、悲しませちゃったしね…」
「これから側に居てくれるなら、もういい」
「利久、ありがとう」
良次が俺の頭を撫でる。
「さっき志水に告白された時、俺の事好きって言ってくれたよね?」
「う、うん」
やっぱり、あの時聞かれていたのかと、恥ずかしくなる。
「俺の事、好きになってくれて、ありがとう」
こんな照れてしまいそうな事を、サラリと言ってしまえる良次は、やっぱりかっこ良い。
志水の事は、約束を守れなくて申し訳ないと思っていたから、正直、志水が王子様じゃなくてホッとしている自分がいた。
「俺と良次の事、気にしてあんな事言ってくれたんだよな…」
志水の俺達の事を思っての行動を思い返して、俺が呟くと、良次が眉を顰める。
「いや、志水のアレは本気だった」
「あのなぁ…」
「俺は志水と子供の頃からずっと一緒だったから、分かるんだよ」
俺の事心配してくれるのは有難いけど、本当に良次は考えすぎだと思う。
「利久と付き合ってから、俺は、他の奴に言い寄られないか、いつ愛想を尽かされるんじゃないかって気が気じゃないよ」
「良次が?」
こんなに容姿端麗で、頭も良くてみんなに慕われていて、何でもできてしまう良次が、そんなに不安になるなんてと首を傾げる。
どう考えても、愛想を尽かされそうなのは自分の方なのに。
「それだけ利久は魅力的だし、俺は利久に夢中だって事だよ。だから、治す所なんてないし、利久はそのままで良いんだよ」
「良次…」
「利久、好きだよ」
そう言って、良次は俺の体を引き寄せる。
良次の綺麗な顔が近づいてくる。
目が離せなくて、綺麗だなと思っているうちに。
キスをされていた。
二人で顔を見合わせて、笑って。
「俺も」
そう言えば、良次が幸せそうに微笑んだ。
けれど突然、良次の顔が強張る。
急に変わった良次の表情に、俺は不思議に思って、その視線の先を辿る。
そして、俺も愕然として、その場から暫く動けなかった。
良次の視線の先に居たのは、
秋人おじさんだった。
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