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《41》
「そうか…」
何かを考える様に、おじさんが俯いて黙り込む。
「おじさん…?」
不思議に思って問いかければ、おじさんはゆっくりと重そうに顔を上げた。
「…俺は本音を言えば、お前達の気持ちが一時の気の迷いだったら良いと思ってる」
「………え?」
良次の時にはすんなりと頷いてくれていたから、俺は予想外のおじさんの言葉に思わず聞き返した。
「利久、世の中には一緒にいたいだけじゃ、どうにもならない事もある。何かを貫き通す時には、それ相応の犠牲が生じるもんだ」
いつも飄々としているおじさんが、真面目な話をするのは珍しい。
だけど、そういう時は、いつも俺の事を心配してくれている時だ。
「生きてれば、どんなに足掻いてもどうにも出来ない事もあるし、理不尽な選択を迫られる事もある。お前が選んで進もうとしてる道は、そういう場面にぶち当たる確率が高い道だ。言葉だけじゃ分かんねぇかもしれねぇけどな」
「利久、俺はお前には幸せになって欲しい。…お前の母親の分までだ」
おじさんは、昔からずっと母さんと俺の事を見守って支えてくれていた。
だから、おじさんが俺の幸せを心から願ってくれているのは、分かっていた。
「おじさん…、俺も母さんも、今までずっと幸せだったよ」
「………」
「だけど母さんが死んだ時、俺、生まれて初めて辛いと思ったんだ。きっと、これから先ずっと苦しい気持ちを抱えて、一生生きていかなきゃいけないんだって」
「でも、良次が…、俺をまた幸せな生活に戻してくれたんだ。だから、おじさん」
「………」
「俺、今幸せだよ」
もしかしたら、これから先すれ違ったり、喧嘩もするのかもしれない。
だけど、良次と二人なら、きっと乗り越えて行ける。
おじさんは、深く溜め息を吐いた。
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