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可愛い狼の女の子《3》~良次視点~

ふと、その子のパーカーに耳がついている事に気づいて、軽くフードを引っ張る。 「可愛い犬のフードだね」 「あうぅ、違うの。狼さんなの!」 俺の言葉に、その子はちょっとだけ不満そうにキュッと可愛く小さな眉を吊り上げる。 褒めたつもりだったが、気に触ってしまったらしい。 顔を見たら、もしかしたら知っている子かもしれないと思い、謝りつつフードを捲ってみる。 そのフードの中から現れたのは、見た事もない位に可愛い女の子だった。 吸い込まれてしまいそうな、 大きな瞳で見上げられ、 それが、思えば初恋だった。 あまりの可愛さに、もしかしたらこの子はお祖母様を迎えに来た天使なのではないかと錯覚する程。 初めて、誰かを自分のものにしたいと思った。 気がつけば、人生初のプロポーズをしていた。 「結婚したら毎日一緒に遊べるし、お菓子が好きなら毎日食べさせてあげる」 我ながら、なんと稚拙な口説き文句かと思う。 でも、子供ながらに、どんな手段を使っても、この子を手に入れたかったのだと思う。 あの後、俺はひーちゃんに会いに行こうと周りに聞いてまわったけれど、誰もひーちゃんの事は知らないと口を揃えて言った。 秋人さんに聞いても、毎回苦笑いではぐらかされた。 もしかしたらひーちゃんは、本物の天使で、自分以外は誰も覚えていないんじゃないかと思った。 唯一、ひーちゃんが存在していたと確信を持てたのは、一緒に葬式に参列した志水がひーちゃんの事を覚えていたからだった。 今思えば、そもそもひーちゃんは男の子だったのだから(というか、利久)、周りが天使の様に可愛い女の子を覚えていなくても不思議はない。 秋人さんに曖昧に誤魔化されたのも頷ける。 俺の初恋の相手が、男の子だと言いづらかったのだろう。 暫くは、ひーちゃんの情報を得ようと色々と奮闘していた。 けれど、一向にひーちゃんの情報は何もなく…、 成長するに従って、あれが現実だったのか子供の空想だったのか曖昧になり、会いたくても会えない初恋の相手の思い出に、 俺は蓋をした。

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