244 / 346

王子様と一匹狼

おじさんが帰った後、良次が気まずそうに俺を見る。 「利久……、その、悪かった」 「……?」 「……」 何に対して謝られているのか分からなくて、俺は一瞬首を捻る。 「さっきもう仲直りしたんだから、もう謝んなくていいって」 先程の事をぶり返しているのだろうか。 そう思うけれど、すぐに良次が否定する。 「さっきの事じゃなくて、…その、利久との約束すっかり忘れちまってて…、本当にごめん」 それで、ようやく良次が何に対して謝っているのか理解した。 「俺だってこの間まで忘れてたんだから、お互い様だろ。大体、ガキの頃の話だし」 「……」 「良次だったんだな。あの王子様」 あの日。 迷子で泣いていた自分を助けてくれた少年が、今隣りにいる。 不思議な感覚だった。 そして、恋人として暮らしていた相手だなんて、本当に凄い偶然だと思う。 「ガキの頃の自分に先越されるなんて、悔しいな」 「自分じゃねぇかよ」 良次が嫉妬深いのは知っているけど、まさか過去の自分と分かっても嫉妬するなんてと、ちょっと呆れてしまう。 「…俺の初恋の相手も、利久だったんだな」 「まぁ、ガキの頃の思い出なんて美化されてるもんだしな。ガッカリしたんじゃねぇか?初恋の相手が俺で。結構変わっちまったしな。秋人さんにも、昔は人形みたいに可愛かったのにって残念そうに言われ…」 「今だって可愛いよ」 「え…?」 「きっと、何度だって利久を好きになるんだ。分別のつかない子供でも、大人になっても、何度だって惹かれるんだ」 「良次…」   「好きだよ、利久…。待たせて、ごめんね…」 「だ…、だから、忘れてたんだって…」 照れ隠しにそう答える。 けど、確かに子供の頃は、王子様が迎えに来てくれるのを楽しみに待ってたっけ。 「あの約束…、守れたかな…?」 聞かれて、俺は頷く。 忘れていても、ちゃんと迎えに来てくれた。 いや、俺から押し掛けてきた事になるんだろうか? どちらにせよ、王子様は約束を守ってくれて、ちゃんと今隣りに居てくれる。 母さんと3人では暮らせなかったけど…。 十分過ぎる程、幸せだった。 俺は、あの日の良次の言葉を思い出していた。 『ねぇ、僕のお嫁さんにならない?』

ともだちにシェアしよう!