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王子様と一匹狼
おじさんが帰った後、良次が気まずそうに俺を見る。
「利久……、その、悪かった」
「……?」
「……」
何に対して謝られているのか分からなくて、俺は一瞬首を捻る。
「さっきもう仲直りしたんだから、もう謝んなくていいって」
先程の事をぶり返しているのだろうか。
そう思うけれど、すぐに良次が否定する。
「さっきの事じゃなくて、…その、利久との約束すっかり忘れちまってて…、本当にごめん」
それで、ようやく良次が何に対して謝っているのか理解した。
「俺だってこの間まで忘れてたんだから、お互い様だろ。大体、ガキの頃の話だし」
「……」
「良次だったんだな。あの王子様」
あの日。
迷子で泣いていた自分を助けてくれた少年が、今隣りにいる。
不思議な感覚だった。
そして、恋人として暮らしていた相手だなんて、本当に凄い偶然だと思う。
「ガキの頃の自分に先越されるなんて、悔しいな」
「自分じゃねぇかよ」
良次が嫉妬深いのは知っているけど、まさか過去の自分と分かっても嫉妬するなんてと、ちょっと呆れてしまう。
「…俺の初恋の相手も、利久だったんだな」
「まぁ、ガキの頃の思い出なんて美化されてるもんだしな。ガッカリしたんじゃねぇか?初恋の相手が俺で。結構変わっちまったしな。秋人さんにも、昔は人形みたいに可愛かったのにって残念そうに言われ…」
「今だって可愛いよ」
「え…?」
「きっと、何度だって利久を好きになるんだ。分別のつかない子供でも、大人になっても、何度だって惹かれるんだ」
「良次…」
「好きだよ、利久…。待たせて、ごめんね…」
「だ…、だから、忘れてたんだって…」
照れ隠しにそう答える。
けど、確かに子供の頃は、王子様が迎えに来てくれるのを楽しみに待ってたっけ。
「あの約束…、守れたかな…?」
聞かれて、俺は頷く。
忘れていても、ちゃんと迎えに来てくれた。
いや、俺から押し掛けてきた事になるんだろうか?
どちらにせよ、王子様は約束を守ってくれて、ちゃんと今隣りに居てくれる。
母さんと3人では暮らせなかったけど…。
十分過ぎる程、幸せだった。
俺は、あの日の良次の言葉を思い出していた。
『ねぇ、僕のお嫁さんにならない?』
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