268 / 346
《19》
ちょっと笑った後、良次がポツリと呟く。
「………、利久に…」
「……え?」
「利久に、俺の汚い部分も知って欲しかったのかもしれない」
「…?」
「そんで、俺も知りたかったのかも。優しくて、正義感の強いお前が、俺がどういう人間なのか知っても、離れねぇか」
「………」
「強い奴を暴力で屈服させて、自分の自尊心を満たす様な最低のクズだって知ったら、利久がどう思うのか、知りたかったんだろうな。それで、実際、引かれたり、嫌われたりしたら傷つく癖にな…」
淡々と語る良次の声は、どこかちょっと寂しそうだった。
「やっぱり、さっきは興奮しすぎてまともな判断できてなかったんだろうな」
良次が俺の顔を覗き込む。
俺の感情を探る様に。
「……ひいてる?」
「ひいてねぇ。…俺だって、散々喧嘩してきたし」
「正当防衛だろう。意味合いが全然違う」
「おんなじだよ…。人様に怪我させちまったら」
だから、俺は佐久間に謝らねぇといけないし、償わねぇといけないんだから。
「同じじゃないよ。自分を守る為と、自分の利益の為にやんのとじゃ、全然違う」
俺の腰を抱く良次の腕に、力が入る。
「俺の事怖くない?利久も対象だったんだって言ってるんだよ」
「………怖くねぇ。俺の方が力強いし」
「…ふっ、ははっ、そうだな。腕力じゃ利久に絶対敵わないな」
「…そうだよ。だから、変な心配すんな」
「…そうだな…。…利久が、先に俺の家に住む事になって良かったよ」
「なんで?」
「暴力振るって利久に嫌われずにすんだからな」
「思いっきりメンチ切られた上に脅されたけどな」
「………………え?もしかして、気にしてるの?」
「冗談だよ。気にしてねぇ」
「…なんだ、脅かすなよ」
珍しく良次が焦った様な反応をするから、ちょっとだけ嬉しい。
だってさ。
それって、俺に嫌われたくねぇって、そういう事だろ?
自分の事知ってほしいけど、それで嫌われるのは怖いって。
俺とおんなじ様に、良次も俺とずっと一緒にいたいって、そう思ってくれてるって。
そう思って、良いんだよな?
ともだちにシェアしよう!