278 / 346

《29》

とりあえず佐久間との押し問答の末、舎弟云々の話は有耶無耶なまま、俺は疲労でぐったりと肩を落とす。 「つ、…疲れた…。精神的にも、肉体的にも…」 「そうだな、お疲れ様」 言われて、ジロリと良次を恨めしげに睨む。 「良次のせいだからな…」 「何が?」 「な、何がって…」 良次がニヤリと口の端を吊り上げる。 それを見て、良次の奴が絶対分かっていて面白がっていると気づく。 「わ、分かってるだろっ!?」 真っ赤になって怒鳴る俺に、良次が面白がっているとあからさまに分かる笑みを濃くする。 「お前の口から聞きてぇ」 「………っ、こんな…、とこで、やらしい事する…から、…」 「するから、何?」 「…っ、て、天皇寺に、睨まれたんだぞ…」 「へぇ?ほっとけよ、そんなの」 「ほっ…」 ほっとける訳無いだろう。 だって、天皇寺は、良次の事…。 「…っ」 好きなのに…。 良次は、気づいてないんだろうか? 覗うように見れば、良次は飄々とした笑顔で俺を見る。 良次が気づいているのか、いないのかわからない。 けど、何かモヤモヤする…。 「…………」 「利久?」 黙り込んだ俺を見て、何を思ったのか良次が眉を下げる。 「何だ、怒ったのか・・・?」 「怒って・・・る、訳じゃねぇ・・・けど・・・」 「悪かったよ、利久の反応が可愛すぎて、からかって」 「・・・うん」 「帰ろう、利久」 良次に言われて帰ろうと思い、差し伸ばされた手を掴んで、ふと気づく。 「あれ…、ところで、相原は…?」 「………………あー………」 俺の問いかけに、良次の視線が泳ぐ。 「まぁ、なんだ。別に大した事じゃないんだが…」 珍しく歯切れの悪い良次に、嫌な予感がする。 「さっきな、色々報告や打ち合わせで、相原も天皇寺の部屋に居たらしくてな」 「…………………え?」 それは、つまり。 さっきの俺の声、相原にも聞かれてたって事…? 「利久と顔合わせづらかったんだろうな」 「…………………」 良次の言葉に、卒倒しそうだった。

ともだちにシェアしよう!